【文豪】

僕と僕の玩具屋さん⑥

 そろそろ日が暮れる頃だ。総統以外の子供たちは帰って行く。一人ポツンと残された総統だけが不満そうに、けれどもはにかみながら座っていた。
「さっき、ここに来ればたくさん友達がいるって言ったね。でも、こんなところよりもずっとたくさん友達がいる場所がある。どこだと思う?」
 首を傾げる総統に、僕は笑って言う。
「学校さ」
 学校という場所が、それだけではないことは、僕が一番知っている。それでも、君ならもう少し楽しめるはずだからさ。ちょっと行ってみたらどうかな、なんて調子で言ったのだ。本当は、自分で思っているよりも本気なのかも知れないけれど。
 それにしても、と僕は気恥ずかしさをごまかすように窓の外を見た。もう外は暗い。こんな時間に子供一人外に出してもいいものか。やっぱり、送っていくべきだろうな、と立ち上がる。
 扉がカラン、と鳴いて開いた。
 それは、眼鏡をかけた背広の男性だった。
 男性の目は総統に釘付けになっていて、総統も男性を見つめている。しばらくの沈黙の後、総統は呟いた。
「おじさん……」
 男性は、苛立ちを隠すこともなく総統に近寄り、手を取って歩き出した。当惑しながら必死で着いていく総統は、何かに助けを求めているようで。
 僕はとっさに大声を出した。
「あの!」
 男性と総統が振り向く。
「ご来店ありがとうございました。是非、またのご来店をお待ちしております」
 深々と、僕は頭を下げる。男性は少しだけ顔を赤くしながら、ボソボソと何か謝罪だか礼だかの言葉を言った。
 彼らが店を出るまで、僕は頭を下げ続ける。あの小さな総統が、最後の、本当に最後の方でもいいから、僕のことを友達として思い出してくれればいいと思いながら。

著者

緒川 火華
緒川 火華
 密かに小説家志望です。情景描写が苦手ですので、厳しい目で見てやってください。
 よろしくお願いいたします。

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