【文豪】

人生は逆転できる!


第一章 地獄の始まり
■信じられない1億円の連帯保証

 それは一本の電話からだった。

平川さんという、亡くなった父が勤めていた銀行時代の後輩で、当時は地場中堅ゼネコンの副社長。
私は転職失敗を繰り返し、東京の出版社でバイトをしていた。
「克己さん、私はあなたのお父さんに大変世話になった者です。
実は、あなたのお母さんが1億円の借金をかぶり、土地も差し押さえになりました」

「えー!?何ですか?それは!」

「お母さんが、ある男の連帯保証人になっていたのですが、その男が返済せず、

請求がお母さんのところに来たのです。一度、こちらへ帰って来れませんか?」
 実家が1億円の借金?土地が差し押さえ?そんなバカな。嘘だろう。悪夢のような話だ。
しかし、博多へ帰ってみると現実だった。
 母が連帯保証した相手は佐賀県唐津の浦川清史。
60代前半の妻子持ち。職業は地上げ屋!
 当時、世間ではバブル崩壊という言葉が流行っていた。
 浦川が借金した相手は、いわゆる高金利でお金を貸す街金、高利貸しだ。
約1億円にのぼる借金を浦川が返済しなかったので、街金は連帯保証人である私の母に請求。
かつ、福岡市の中心部、大名にある先祖代々の栢野家の土地も差し押さえた。
 Uターン後に登記簿謄本を見ると、裁判所による「競売開始決定」も記載されていた。
 母が他人の連帯保証人として1億円の借金をかぶり、土地も差し押さえになった。
このままだと家屋敷を全部取られる。相手は地上げ屋と街金。
さらに、母とその妻子ある地上げ屋は「できて」いた。
こんな火曜サスペンスドラマのような出来事、ホントかよ。
 しかし、私は平川さんと一緒に母、弁護士、司法書士、街金、浦川清史に会ったが、全部事実だった。
かつ、浦川は資産も金もないこともわかった。
 借金1億!

 地場相互銀行の取締役だった俺のオヤジは44歳の時に脳血栓で倒れ、2週間で亡くなった。

詳しくは知らなかったが、財産は福岡市早良区野芥にある一戸建て、西新の2LDKマンション、
銀行の株券が数万株に現金少々。
そして福岡市のど真ん中の天神地区、大名に17坪の土地があった。

 実は今回の騒動の原因はこの大名の土地だった。

この土地は、父と同じ銀行の前身である無尽銀行の取締役だった祖父から父が相続し、
父の死後は母に相続された。
私は知らなかったが、成長著しい福岡都心の土地ということで、
バブル時代の1980年後半には、なんと坪2500万円の値が付いた。
と言っても正式な話ではなく地上げ屋からの話。17坪だと約4億円。

 そういえばバブル最後の頃、母との電話の中で、そんな値が付いたという話があったが、

私は実家の財産には感心はなかった。
私の中では実家とか親とか故郷は年末年始に思い出す程度。
仕事が定まらずに東京や大阪を転々とし、失敗だらけの人生だったが、
故郷へのUターンは一度も考えたことはない。
なんとか東京で成功しようと、いつも目の前のことで精一杯だった。

●狂った母。狂う俺

 それにしても、母はなんで地上げ屋なんかとつき合ったのか。

ある日、母をつかまえて尋問した結果は、驚くようなことだった。

 出逢いはその7年前。西新のパチンコ屋という。

西新とは私が高校まで育った街で、福岡市内では天神・博多駅に続く副都心。
昔ながらの屋台も多く出る商店街があり、海も近くて進学校も多い。
そこに小中高と過ごした銀行社宅アパートがあったので、私ら家族には第2の故郷だった。
 父の死後、1年後に長男の私が大学進学で京都へ。その後、次男も就職で東京へ出た。
結果、母は購入した西新の2LDKマンションに一人で住んでいた。
「一人」で。

 しかし、出逢いがパチンコ屋とは。サイテーの場所だ。俺も昔はたまにパチンコをしたが、

基本的にはああいう場所は不良やダメ人間が行くものと決めつけている。
 父の死後も億単位の財産があるので働く必要はなく、私ら子供が巣立ち、
暇になった母は自然とパチンコ屋の常連になったらしい。
 同じく常連だった浦川と顔見知りになり、ある日、浦川は母に3万円を借りた。
が、浦川はすぐに返したという。
その後、また5万円の借金申し込みがあったが、これまたすぐに返済された。

 そんな貸し借りが何回かあったあと、母は30万円を貸した。

すると浦川は期限通りに返済しただけでなく、
「自宅にバラの花束を持ってきてくれたのよ~」
と母は遠くを眺めながら、懐かしそうに、半ばうれしそうに、後悔もなさそうに言った。

 これで母は「落ちた」のだと思った。典型的な詐欺師の手口だ。

 こうして母は浦川と男女の仲になった。

浦川は唐津に妻子がいたが、浦川が福岡方面で仕事する場合は母の家に住むようになった。

「パパと好みが似ているのよ。私が作る味噌汁とか料理がうまいうまいって・・・」

 私は耳を疑った。

「それにパパは忙しかったでしょ。(浦川と)あちこち一緒に旅行に行って楽しかった」

母の愛の告白。サイテーだ。

 私は今回の件で浦川と数回会ったが、その獣のような60男の顔姿を思い出し、

かつ、50代後半の母が近年、以前よりキレイになっていたのを思い出した。
オスとメスとの交わり、母と浦川のセックスを想像し、
なるほど、このメスはあのオスの陰茎にやられたのかと、異常な汚らわしさを感じた。
そしてドンドンやられていき、気づいたら1億円の連帯保証人になっていたのだ。

 数億の資産を持つ元銀行役員の未亡人が、妻子ある悪徳地上げ屋ブローカーと恋に落ち、

いまやその財産を奪われようとしている。
女性週刊誌やワイドショーのような話。
他人事ならば「人の不幸は密の味」。
なんとも痛快というか、絵に書いたような醜聞事件だ。

 ある時、実家マンションで母を詰問した後、ふと、玄関の靴箱を開けた。

果たしてそこには男物の革靴が山のようにあった。明らかに浦川の靴だ。
母が浦川と暮らしていた何よりの証拠。
そして、母が承諾している証拠。愛の暮らし。堕落の証明。

 それは俺の実家に棲んでいる獣のもの

あの鬼畜が身につけている、汗がしみ込んだクサイ靴。
見つけて10秒も経っていなかっただろう。
私は靴を次々につかんで外のゴミ捨て場所へ投げ捨てた。
「この野郎!」と雄叫びを上げながら。
憎しみを込めて叩きつけるように。いや、叩きつけた。
 自分の縄張りに入り込んだ、ライバルのオスを排除する動物本能でもあった。
おれ達の財産を奪い取ろうとしている悪人、
俺の実家、俺の古巣に入り込み、占領し、母と財産を奪い取った獣のオス。

 狂ったように靴を投げ捨てる俺を、母は呆然と見ていた。

首をうなだれながら。
仕方がないと自分の罪を認めるように。

著者

栢野克己
栢野克己
就職転職と起業を繰り返して七転び八起き。生前はダメ人間だった山頭火、宮沢賢治、尾崎放哉、ゴッホ、ジェームズ・アレン、ナポレオン・ヒルではなく、生きてるうちに、デール・カーネギーのような世界のベストセラー作家になります。

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  1. 劉也

    流石ベストセラー作家だ。作品に引き込まれる。早く続きが読みたい。

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