【文豪】

記憶と現実 <5-2>


「クリスマスと一緒って言うじゃん。クリスマスまではわくわくして待って、二十四で一番盛り上がって、二十五でも盛り上がって、そのあとはもう終わりっていう――

 私も学生の時にそのクリスマスの例えを別の友達から聞いたことがあったが、そんなに広まっている話だとは知らなかったので、少し驚いた。私は二十五歳だった。まだ知力や体力の衰えを感じたことはないし、未だに学生と間違えられるほど、外見的に幼かった。私もこれから年をとって、若い子をうらやんだり、妬んだりするようになるのだろうか。

 突然、罪深い記憶が蘇った。テレビで若い頃に亡くなったアイドルの写真が映って「若くして亡くなると年取った皺だらけの写真がなくていいわね」と言った母に向かって、とっさに私は悪気なく「お母さんも早く死んだらきれいな写真しか残らなくていいね」と言ってしまったことがあった。母は泣きそうな顔と声で「なんてこと言うの」と言った。母は傷ついただろう。

 そのあと私たちは、お互いの仕事の話――将来の話をした。彼女はアルバイトをしながら、本当にやりたい映像関係の仕事を探しているところだった。彼女は十代の前半からパソコンで映像を作り続けていて、以前有名なDJと共演したこともあり実力も経験も充分だと思うのだが、やはりそこは層が厚く厳しい業界で、なかなか希望の仕事をさせてもらえる会社に就職できず悩んでいた。いつも元気な彼女が不安そうに顔を曇らせて、他人に認めてもらえない悔しさを私にそっと打ち明けた。年齢的にも、女性ということもあるし、どこかで諦めなくちゃいけないのかな――と言いつつも、最終的にできるところまでは続けるという結論を彼女は最終的に自分で出した。本当にしたいことをある程度まで形にできていて、さらに目標に近づこうと努力している彼女を私は心から尊敬したし、刺激を受けた。

それから、三人で来ていた女の子たちとトイレで言葉を交わしたことから仲良くなって、しばらくその子たちと踊って飲んで叫んで大騒ぎをした。明け方近くになるとその子たちは始発で帰るために早々店を出て行き、またエレナと私の二人になった。

――そういえば震災の時、どこにいた?」

「震災の時――えーっと、会社。びっくりした――、すごい揺れて、超怖かったよね!」

 しばらくの間誰と会っても、誰もがどこかしらで経験した震災の話は、共通の話題だった。東京では建物が倒壊する程の被害はほとんどなかったが、被災地に近かった祖父の家(祖父は数年前にすでに亡くなっていた)は被害が大きく、そのままにしておくことができず、取り壊されてしまった。引き戸の玄関の音、たくさんの畳の部屋、つるつるした丸い白と深緑の石が敷き詰められた浴室の冷たいタイル、古い障子や襖のある、昔ながらの一階建ての大きな家――生まれてから毎年泊まりに行っていた懐かしいその家を、もう二度と見ることはできなくなった。

 

朝になって徐々に人が減っていき店が閉まると、私たちはひんやりとして気持良い、きれいな朝の空気の中に放り出された。通りがかりのカフェに入って、朝食をとった。ほとんど寝ていない私たちはくたくたでひどい顔をしていたが、それが嘘のように、朝早くからお互いの恋愛話で盛り上がった。

「付き合い始めて一カ月でやらせたら、それからメールしてもシカトされるようになって――。ムカついたから『死ね』って送ってやったの(彼女は携帯を見せてくれた)。また捨てられた! いつもそう、大事にしてもらえない。なんで? したいだけならしたいだけって言えばいいのに!」

彼女が笑う度に大きな八重歯が何度も見えて、私は幸せな気持ちになった。あっという間にもう昼近くになっていて、淀んだ気だるいカフェの空気とは違い、外では太陽が高く昇っていて清々しかった。一晩中一緒にいた彼女とはまるで家族になったように感じられて、別れてそれぞれの家に帰らなければならないのをとても残念に思った。

著者

Ria
小説家志望です。
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