【文豪】

記憶と現実 <4>


 お互いたまたま都合がついた静かな木曜日、私は愛と福生に行った(福生なんて数日前まで読み方もわからなかった)。新宿の駅で待ち合わせし、そこから中央線で西へ一時間近く電車に揺られていった。電車の中ではずっと喋りっぱなしだったので、そんなに長くは感じなかった。昼過ぎに福生駅に着き、歩きはじめてすぐに駅前の店の看板にドル表記を見つけて、喜んで写真を撮った。私たちはまず、十六号の国道に向かうことにした。二人ともまだ昼食をとっていなかったので、途中の店でワインを飲みながらピザとハンバーガーをゆっくりと食べた。きのこが三種類か四種類たっぷりのったピザ(フンギ・ピザというらしい)だった。赤ワインのボルドー色――ちょうどその日私が肩に掛けていた、古着屋で買った所々擦れて地の茶色い革の色が見えてしまっている四角いバッグと、全く同じ色だった。明るい木目調の店内の中央にある一番大きなテーブルには、ピンクや白や青の蝋か何かでできた巨大な異様な固まりが鎮座していて、それはどこかの島のようにも見えたし、ぐちゃぐちゃになったバースデーケーキのようにも見えた。私たちは出口に近い、大きな鏡のすぐ傍の席だったので、それがなんなのかよく見えなかった。しばらく会っていなかったので、この日は行く先々で座って長々と話しこんだ。最近見た映画の話、共通の友人の話――もうすぐ六本木でウォーホル展があるということを聞いて、私はとても嬉しくなった。彼の画集はたくさん持っているが、やはり美術館で観るのは格別だった。ウォーホルがニューヨークで滞在したホテルの話もしたが、愛との会話の節々から感じたのは、彼女が日本を出てニューヨークに住みたがっているということだった。彼女は何度も旅行で訪れているニューヨークを懐かしがっていたし、すぐにでもまた行きたそうだった。福生に来たがっていたのもおそらくアメリカの、開放的な空気を感じたかったためだろう。私たちにとっては、海外の生活に適応するというのはそんなに難しいことではない。二人とも海外での生活が好きだし、憧れている。英語にも不自由しない。アメリカだったら食べ物だって好みだし、洋服やアクセサリーや雑貨だって可愛い物がたくさんある。ただし彼女は私よりずっと家族を大切に思っていて愛されているので、家族と遠く離れて暮らすなんてことができるのだろうかと思った。

――日本は好きじゃない。好きになれない。それはこの土地にいつからか根付いている、協調・調和を最高の美徳とする、馴れ馴れしくて不自由で曖昧な団体主義のせいだ。視野が狭く、何につけても人目を気にし、くだらないルールを押しつけられる――蔓延する憂鬱と疲労、妥協、虚栄。少しずつでも毎日を快適に、楽しくしていこうとする情熱や余裕がこの国には足りないのだ。

 

 福生にはベーグル屋があって、そろってお土産に大きなベーグルをいくつか(彼女は家族のためにたくさん、私は自分用に二つ)買った。その後、アメリカから輸入されたアンティーク屋に入ったとき、彼女はその日一番興奮しているように見えた。オーガニックの食材を扱っている店にも寄った。それから、福生には横田基地があった――大きな通りを南にしばらく歩いて、基地のいくつかある出入り口のうちの一つに来たとき、身を乗り出して中を覗いたが、よく見えなかった。――それ以上南に歩いても特に私たちの興味を引くような店はなさそうだったし、寒くなってきたので引き返すことにした。後で気づいたが、運悪くその日は月曜日だったので、閉まっている店が多かったのだ。事前に調べて目当てにしていた店も閉まっていて残念だった。大通り沿いに基地は果てしなく続いていて、どこで終わっているのかわからないほどだった。私は数年前に仕事で行った沖縄で見た、広大な米軍基地を思い出した。

だいぶあたりが暗くなってきていたが、まだ夕食の時間には早かったので、基地沿いの通りを北へ向かって歩いて行くと、プラモデル屋や家具屋、楽器屋、墓石屋があった。墓石屋の前には墓石があちらこちらに並べられていて、きれいに磨かれて艶のあるものから、削りかけのもの、まだ手を加えられていない自然の石の曲線や傷が残ったものまで様々だった。色の黒いもの、白地に灰色の斑点がはいったもの、褐色のもの、それから上に笠がついたものもあった。まだ誰の墓石にもなっていないその石は、気味が悪いというよりは、ただ単に街中で見るのがもの珍しいという印象を私たちに与えた。墓石屋の前で、私たちは真っ暗な店の中に何か見えると言ってふざけた。その後、十時頃まで飲んで食べ歩き、また長い線路の上を東に向かって電車に揺られて帰った。疲れていた私は途中で寝てしまった。

著者

Ria
小説家志望です。
お気軽にコメントいただけると嬉しいです^^
【この作品の最初の評価者になりませんか?】

5段階で評価をお願いします!一番左が「1」、一番右が「5」となっています。
※一度評価をしますと取り消しができませんのでご注意ください。


次回に期待・・・もう少し普通良い文章最高! (まだ投票されていません)
Loading...
コメント 0件

コメントはこちら

Return Top