【文豪】

記憶と現実 <2-1>

 愛の態度が相手によって変わったように――少なくとも私にはそう感じられた――おそらく私も相手によって態度を変えているのだろう。それは特別珍しいことでも悪いことでもなく、どうしようもなく存在する当たり前のことだと受け入れるのにいくらか時間がかかった。

 

十月のある土曜日の夜、美優と晴日と新宿の駅で待ち合わせた。美優は約束の時間の五分前にしっかりと着いていて、晴日と私は十分程遅れてしまったが、美優は怒ることもなく逆に申し訳なさそうに笑っていた。私たちは新宿駅の南口から少し歩いた所の地下へ通じるせまい階段を下りて、小さなバーに入った。

店内は暗かったが、深くてまどろむようなオレンジ色の間接照明が灯っていて、レジの横の壁一面の何段もの台の上に――雛祭りの大きな雛壇を思い出した――ぎっしり並べられたウィスキーやブランデー、ジン、ラム、テキーラ、ウォッカ、リキュールの瓶を、波を不気味に浮き上がらせる月の光のように冷たく照らし出していた。すべてラベルを前に向けられた瓶は、隣の瓶と今にも話し出したいのを我慢して静かに整列しているようだった。

美優は透き通るほど色白で背が高くモデルかバレリーナのようにすらっとしているが、その長身を支えるにはあまりに細すぎる脚と、鎖骨下のあばら骨の見える胸もと、眼の下の灰色のクマのせいで一見不健康そうにも見える。学生の頃のその特徴は今でも変わっていない。ささやくような落ち着いた素敵な声をしていて、笑い声は無邪気さと幸福に満ちていた。彼女の動作一つ一つ誰もが見入ってしまうほど本当に優雅で美しかったが、近付きがたい存在というわけではなく、薄い眉尻を下げ目尻に皺を寄せた笑い方や、控えめだが時に大胆でユーモアのある話しぶりは誰にとっても親しみやすいものだった。

晴日も美優と同様手足がほっそりとしていたが、小柄で肌の色は浅黒く、健康そうにふっくらと頬を盛り上がらせてよく笑っていた。彼女は常に他の誰よりも声が大きく、はっきりしっかりと話し、明るいだけでなくとても気もきくので、好印象をもたれやすく友達も多いようだった。彼女の声はいつでもそこに居合わせた人たちの耳をとらえた――そして時々、そのうちの何人かは「うるさい」と彼女に聞こえるほど大きな声で文句を言い、不機嫌になった。

二人の現状についての話がひととおり終わると、私にも話が振られた。それまで私は自分から何も話さなかった。彼女たちが聞きたがっているのに気づいたものの、なんとか今日はその話をしないで済ませられないものかと考えていたが、それが無理なのはわかっていた。恋愛話が好きな晴日は必ず私に尋ねるはずだからだ――教室でも道端でもレストランでもバーでも、彼女は同じ質問をした。彼女はずっと恋人がいなかったから、他の人の恋愛が気になるのだろう。この日も彼女は悪びれずあっさり口を開いた。

「亜里沙は? 彼とはどう? いい感じ?」

「うーん――普通にまだ付き合ってる」

「あ、そうなんだ、順調なんだね。結婚するの?」

「さあ――、わかんない。でも、ないと思う――彼はしたそうだけど」

「でも別れないんだ?」

 

著者

Ria
小説家志望です。
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