【文豪】

夏の黒煙3


その日私は朝からたいへん気分が良くありませんでした。朝早くにお母さんに叩き起こされ、母方の祖父の訃報を知らされたのです。私は小さいころからおじいちゃん子で、祖父母の家の裏に大きな山があり、日が暮れるまでずっとおじいちゃんと虫取りをしたりしていました。その知らせを聞いて私は、ああもうおじいちゃんには会えないんだ、と思うばかりで、それが私にとって何を意味するのかを理解できずに呆然と立ち尽くしていました。祖父母の家は隣県の小さな村にあり、ここ2,3年は私も忙しく会うことはありませんでしたので、おじいちゃんに会えないということがどんなに悲しいことかをその時は考えてもみませんでした。

 

 朝早くからドタバタしており、混乱した私は近くの河原まで散歩することにしました。私は散歩が好きでした。歩いている間は色々なことをのんびり考えることができるからです。歩いている間、私はおじいちゃんのことを考えていました。

 

「人間は死んだら煙になるんだよ。人間の魂は煙になって空に上がっていくんだよ。それでね、不思議なことに最初その煙は黒いんだ。これはその人の悪い部分がどんどん外に出て行っているんだね。そして、悪いところが全部出ると次に真っ白な煙が空に昇っていくのさ。だから、いい人も悪い人もみんな真っ白な煙になって天国にいけるんだよ。」

 

小さい頃、絵本で読んだ地獄の絵が怖くて泣いていた私に祖父はいつもそう話していました。私は空を見上げて、煙のような雲が目に入るとおじいちゃんもああいうふうになるんだと思って突然悲しくなりました。小さい頃から傍にいて遊んでくれたおじいちゃんは私の手の届かない天国に行ってしまうのです。私は河原の草の上にうずくまって、川を眺めました。私は方丈記の「ゆく川の流れは絶えずして――」の部分を口ずさんでいました。そうです。川の流れのように人間は入れ替わっているのです。

 

私は泣き出してしまいました。身内が亡くなったからというのは傲慢と言えるでしょうが、私のおじいちゃんが亡くなったことを川の流れ云々といって、はいおしまいではおじいちゃんがとても報われません。なんて悲しい世の中なのでしょう。

 

どのくらい泣いていたのでしょう。不意に後ろから声を掛けられました。

 

「どうして泣いてるんですか?」

「えっ・・・・。」

 

私は反射的に顔を上げて後ろを振り返りました。どこにでもいそうな顔立ちで、眉毛が少し濃い男の人が私を見ていました。その濃い眉がひそめられてとても悲しそうな顔をしています。あっ、と私は心の中で小さく驚きました。それは同じクラスの男の子でした。

 

「ううん、何でもないの。眠くて欠伸をしただけです。」

 

私は恥ずかしくなってとっさに嘘をついてしまいました。しかし、悲しげな眉の下でこれまた悲しそうにしている双眸は私のついた嘘をあっさり見破ったようです。彼は何故か少し声が大きくなって嘘だと言っていましたが、私は関係ない彼に話すことなどなにもないと思って足早にその場を立ち去りました。

 

これが、私と彼のはじめての会話でした。泣いている私に対して悲しそうに話しかけてくれた同級生をあんな態度で無下に扱うなんてその時の私は本当にどうにかしていました。別れ際の、彼の悲しみと後悔がにじみ出ている顔を思い出し、私は後日彼に謝りに行こうと決めました。

著者

uporinn
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