【文豪】

浮浪者 前編


 私は町を歩いていた。するとそこには、乞食がいた。私は彼を気味悪く思って、少し避けた。しかし少し彼が気になってちらりちらりと彼を見た。彼は笑っていた。口だけではなく目までもが笑っていた。そこに薄気味悪さはなく、ただ、快活さだけが見えた。
 私は少し彼と話をする気になった。
「なにをされているんですか」
彼は誰がどう見ても、なにもしていない。ただ座っているだけだった。だから、私はこう聞いた後に、馬鹿らしいことを言ってしまったと思った。だが、彼は、「ただ座っているだけですよ」と答えてくれた。彼は不機嫌になるでもなく、ただただ、笑っていた。
 ふいに私は、彼の笑いは金目当てのにやつきなのではなかろうかとと思った。私はなぜこんなのに話しかけてしまったんだろうか。
「お金がほしいんなら、誰か別の人に言ってください。私は今手持ちがないんでね」
彼は大笑いをした。私は顔をしかめた。彼は話しかけてきた。
「いや、笑ったりなんかして失礼。おかしかったんですよ。だってそっちから私みたいな乞食に話しかけてきたくせして、いきなり手持ちがないだなんて」
彼はまた吹き出した。
「やはりあなたはお金が欲しかったんですね」
「いいや、そういうわけじゃありませんよ。別にお金なんて欲しくありません」
「でも、食べ物だって必要でしょう。飢えてしまうじゃありませんか」
「食べるだけは稼ぎます。日雇いの仕事をするんです。その日暮らしですね。昔は貯金もあったんですがね」
「なぜその貯金を残しておかなかったのですか。まさか、ギャンブルではないでしょうね」
「いいえ、ギャンブルはしません」
「では酒かな」
「いいや。私はアルコールというものが好かないんです」
私は少しの間考えた。
「じゃあタバコか」
「昔タバコをもらったことがありましたけれど、あれはだめですね。少々重すぎる。軽いものなら好いたかもしれませんが、でも私はあれ以来タバコを呑もうだなんて思いません」
「じゃあ、一体何をしてるっていうんですか」
「いえ、朝起きたら仕事を見つけ、働き金を得、そして食事を取り、眠りにつきます」
「そんな生活のどこが楽しいと」
「いいえ、楽しいですよ。今日あったことを話しましょうか」
「いや、やめておこう」
「残念です」
「今日はこの辺で失礼させてもらうよ」
「またいつかお会いできるといいですね」
 しばらく彼に会わなかった。それで彼のことは忘れてしまった。それから何日かの間に、いろいろとあったのだ。問題が起こり、それを解決した。それはとても大きな問題だったのだが、それに一段落がついたのだ。私は久しぶりに散歩へ出掛けた。そこにあの浮浪者がいた。私は彼のことを思い出すと、幾分かの興味を持って、彼に話しかけた。
「今日はいい天気だね、旦那」
「ああ、本当にね。雲がない。いつもこうならいいんだけどね」
一瞬の間があった。そして彼は私を見てこういった。
「君は少し疲れているようだね」
「ああ、会社でいろいろとあったのさ」
「昔を思い出すものだ」
「君も昔は会社に勤めていたのか」
「ああ、そのほうが安定していたからね。人々は私を落ちぶれた可哀想なやつだと憐れむよ。全く不愉快だね」
「しかし、君は今のままで幸せかい」
「ああ、あの頃よりは幸せだ。貧乏で構わないさ。名声もないが、それも構わない。生きているしね」
「一体何があったのか、昔のことを聞かせてほしい。私はそのことを知りたいんだ」
「あまりそのことは思い出したくない。だが、まあ、君ならばいいだろう。いや、今はだめだ」
「そうか、仕方ない。それじゃあ」
私はそれから彼にあったことがない。

著者

Aribe
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